甘夏

甘夏

甘夏の品種名は「川野夏だいだい」といいます。昔からある「夏みかん」の枝変り(突然変異)によって生れたものです。
柑橘は放っておいても実がなります。都会でも「ならせっぱ」の樹をよく見かけます。見た目ご立派ですが、これってじつは、クソがつくほど不味いんです。一つだけ例外を挙げるとすれば、糖度を上げる必要のない昔ながらの酸っぱい夏みかん。これなら世話が要りません(本当は、それでも最低限の世話は要ります。無防除によるカイガラムシ、ダニ類の増殖という問題がありますが、極論、見て見ぬふりをすればよい)。禄を失った武士の授産事業として植えたのが萩市の名産になっています。昔ながらの夏みかんは、そのまま剥いて食うたら寒気がするほど酸っぱいがため、生食用の果物として流通することはまずありません。糖類を足してマーマレードやジャムなどに加工するためのものです。「武士の商法」ならぬ「武士の農法」が通用するのは、夏みかんくらいだと思います。
柑橘の味に深みを出すには、豊穣な土づくりと動物由来の有機肥料(魚粕、骨粉など)と海由来のミネラル(牡蠣殻ほか)、そして海風が不可欠です。これらの条件に加え、年間通してきちんと栽培管理しなければ、栽培が容易とされる甘夏といえど、まともなモノは作れません。「農業をナメるな」とは、そういうことです。
甘夏は本来、初夏から梅雨時にかけて食すものですが、年々酷くなる気候変動(夏の異常高温と旱魃、秋の長期異常高温、冬の高温と異常寒波、春の異常低温と異常高温―などといった極端な気候、四季がなくなり雨季と乾季になる、など)により、樹勢が低下し、果実体質が弱くなっています。母親が衰弱すれば生れてくる子の健康状態にも当然響きますよね。植物も生き物、農業は生き物相手の仕事です。人間や犬猫と同様に考えれば理解できる話です。
甘夏は、本来は長期貯蔵が可能な品種なのですが、昨今の気象状況による果実体質の弱体化により、気温が上がるにつれて腐敗果が増加します。もはや、これを回避することはできません。「甘夏」と称してはいますが、事実上の「甘春」です。なるべく早いめ、3月、4月中に食べきってしまうのがよいと思います。ヘタ(なり口)の周囲の果皮に軽く触れて、へっこむようであれば、その玉については早く食べてしまうことをおすすめします。
丈夫な個体は梅雨明けまでもちます。表皮が乾いてカチカチになりますが、それは中身を守るためであり、果実の熟成が一段と進み、濃厚な味わいに変化しています。夏の暑い日に冷蔵庫で2、3時間だけ冷やして、グレープフルーツみたいに赤道で二つに切ってスプーンですくって食せば感動ものです。ただし、先に述べたとおり果実体質の弱さと気候状況により半数以上が梅雨を越せず腐ってしまいますので、おすすめはできません。
甘夏は常温で保管してください(ひと手間ですが、1個ずつ新聞紙でくるんでの保管をオススメします)。カボス、レモン、スダイダイなどの香酸柑橘は冷蔵庫の野菜室保存をおすすめしますが、みかん、デコポン、いよかん、はっさく、甘夏など甘味を楽しむ種類の柑橘は冷蔵庫で保存してはいけません。口当たりをよくするため、食べる直前、2、3時間前に冷蔵庫に入れて冷やすのはアリです。

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